林業は森林の林齢(森林の年齢)によって作業フェーズが変化します。
- 木を植える「植林」
- 苗木を育てるための「育林」
- 伐りだして資源を使う「伐採」
山林は厳しい自然環境です。
植林しても必ずしも順調に生育がすすむわけではなく、災害やトラブルに見舞われます。
森林育成中に被害を受けて成長できない木や、他の立木に悪影響を与える恐れがある木も発生します。
あまり聞きなれない、林業の被害木整理という作業を紹介します。
被害木とは何か?
被害木ってなに?
被害木とは危険木とも言われ、風害や水害、地震などの自然現象により枯れたり折れたりして、転倒、幹折れ、欠損している、あるいはその可能性がある木を指します。
被害木になると品質問題で製材用丸太としての出荷が難しくなります。
被害木の原因となるのは主に次の通りです。
立木が腐ってしまった
キクイムシなど木を食べる害虫類により食害を受け、そこから腐朽菌が入り樹芯が腐って幹折れなどに繋がることがあります。
腐朽菌により樹芯が腐っている立木をそのままにしておいても改善されることは見込めません。
時間の経過とともに腐朽菌が増植することが多いです。
虫害や菌の被害は放置しておくと森林全体に広がることがあります。
早めに対処しないと、森林一帯が枯れてしまう可能性があります。
鼠(ネズミ)による食害
立木が鼠の食害に見舞われ被害木になることがあります。
古くからスギやカラマツは野ネズミによる食害があります。
鼠の防除は育林で欠かせない作業です。
繁殖力が強いネズミは放置しておくと被害が拡大するので、早めに対処しなければなりません。
強風で倒れたから
台風などの強風で倒れる木は意外にも予測がつきません。
強風を受けやすい外側の立木が倒れずに、森林内部の立木だけが倒木になることがあります。
一帯がバタバタと倒れていることもあれば、不特定に一部の立木だけが倒れていることもあります。
さらに、一見すると倒れそうにない太くて立派な木だけが倒れていることもあります。
強風被害では根むくれといい、折れたりしないで根ごと引き抜かれて倒れることが多いです。
立木の根元が虫害や食害を受けて枯れかけており、そこに強風が吹いたので倒木になることもあります。
他の木の成長を阻害する木
もたれかかったり日照を遮ったりして、他の木の成長を阻害する木を取り除かなければなりません。
植林では想定どおりに木が成長しないことがあります。
ツルが巻きついて成長できず、近い将来に倒木の可能性がある木も存在します。
他の立木に被害を与える木は早めに取り除かなければなりません。
被害木整理をしないと…
自然環境下では立木が強風で倒れたり、動植物の食害で枯れたりする事が当たり前にあります。
厳しい環境下でわずかに生き残った木だけが生息するのが自然天然林です。
しかし、農業のように人の手で植林した人工林では、被害を受けた立木を人力で整理しなくてはなりません。
人工林は植林後に育林や間伐を重ねて木材資源を栽培する生産の場なのです。
のちの災害防止で放置しない
倒木を放置しておくと下刈り作業の邪魔になります。
被害木整理は育林作業を円滑に進める上で重要です。
植林してから数年は育林のために現場に立ち入ることが多くなります。
足元に朽木や倒木を放置しておくと、育林作業員が転倒して事故災害につながる恐れがあります。
間伐など伐採の時にも危ないので、被害木放置は林業の生産性を下げてしまいます。
蜂災害を未然に防止
育林の下刈り作業では蜂の襲撃による被害が多発します。
ハチの巣が足元にあるのに気づかずに、下刈り中に刈り払い機で巣に衝撃を与えてしまうのです。
蜂で被災するのは毎年多発する林業災害です。
肉食のスズメバチは、樹木内に生息する幼虫や昆虫を捕食するために朽木を好みます。
倒木や朽木になる被害木を整理しておくことは、のちの下刈り中のハチ被害を未然に防ぐことができます。
林道や隣木に被害が連鎖することも
被害木が倒れて林道を塞いだり、林道を壊してしまったりします。
他の健全な立木に被害を与えてしまうこともあります。
倒れた木で健全に育成中だった木が連鎖的に被害を受けてしまい、伐採処理しなければならなくなることもあります。
自然現象によって被害が発生してしまうのは仕方がないことです。
植林した人工林では適切に被害木整理しないと、隣木の育成に支障が出てしまい山林全体の価値を失う恐れがあります。
調査で早めに見極めたい
健全な樹木に見えても内部で腐朽が進んだり、虫や害獣の被害に遭っていることがあります。
育林作業や調査の段階で早めに被害状況を掴めば、整理作業が最小限で済みます。
林内に立ち入るときは気をつけて観察し、被害木を見つけることが大切です。
危険な倒木の処理
何らかの原因で倒れた倒木を処理するには、安全知識と準備が欠かせません。
人力で伐倒する場合は安全で作業効率が良いように倒す方向を計算して伐倒します。
倒木は危険な状態で倒れていることが多くあります。
倒木が隣木にもたれかかっている(かかり木)
被害木が他の木にもたれかかった状態をかかり木と言います。
隣木にもたれるようにして倒れて、ねじれたり張力がかかって弓なりに曲がっていることがあります。
そんな倒木を処理する時に適切な方法をとらず、伐倒の反動で被災する重大事故が過去に数多く発生しています。
反動や反発注意と周囲の安全確認
幾重にも折り重なった倒木はどんな力がかかった状態かは完全に把握できません。
玉切りした拍子で跳ね返ってきたり、丸太が落下移動して挟まれることもあります。
別の作業員が近くにいると危険です。
気づいていないかかり木がないか、被害木まわりの安全確認が大切です。
重機を使ったり、安全な手順を慎重に検討しなければなりません。
斜面の上下で被害木整理は禁止
同一斜面の上下で同時に被害木整理をすると丸太の転落があり得ます。
玉切りした丸太だけでなく、近くの石や岩が落下する恐れがあります。
枝払いをした時に被害木そのものが予期せぬ方向に動いて、斜面を滑り落ちることがあります。
斜面を転落する丸太や石に激突したり挟まれたりすると、林業重大災害事故になりかねません。
同一斜面の上下で作業することは禁止されています。
被害木を活用したいが…
被害木は廃棄物にせずに、使えるものは資源として有効利用したいものです。
どんな木でも山林から持ち出すと搬出輸送コストがかかるため、費用の問題があります。
薪などの資源やDIY材料として被害木を有効利用してもらいたいものですが…。
山林内に立ち入るのは危険
引き取り限定にしたらどう?
とするにしても、山林内に一般の人が立ち入るのは想像以上に危険です。
- 山火事
- ごみ不法投棄
- 遭難
- 熊やハチ、ヘビなどの獣害
- 林道からの転落事故
など、山林管理者責任に問題があります。
有効利用したい被害木
被害木は使えるものもあります。
山林内で仮設の端をかけたり土留め柵のように土木の材料としてその場で使う工夫もされてます。
せっかく成長したのに未利用材を現場で見てると、本当にもったいないものです…。
知られていない被害木整理
植え付ける植林や下刈りなどの育林は、林業の造林作業として有名ですね。
ご紹介した被害木整理は、あまり知られていない地味な作業です。
数十年かかる育林中には様々な自然災害やトラブルが発生し、その結果、倒木やその恐れがある被害木が発生します。
放置してても自然に改善が望めない被害木は、早く対処する方が後の森林被害を最小限に防げます。
林業でマイナーな被害木整理は、皆さんに知っておいて欲しい大切な林業作業です。