林業作業の一つに「下刈り」という作業があります。
下刈りは林業従事者なら誰でも知っています。
育林に欠かせない大事な仕事です。
植えたばかりの苗木は、厳しい自然の中で勝手に育ってくれません。
植樹は植樹祭などで注目されます。
しかし、そのあとの地味な育林作業をしてあげないと苗木は順調に成長しません。
下刈りとは植付けした後、3年くらいまで必要な育林作業です。
森を育てるために大切な下刈り作業について説明します。
なぜ、下刈りしなきゃいけないのか?
植林のために植えた苗木は、高さ50cm以下です。
苗木は成長が遅いです。
翌年も木の高さ(樹高)はあまり変わりません。
そうこうしているうちに、春には雑草や笹が1m以上に一気に生長します。
前年に植えた苗木は、あっという間に草に包まれてしまいます。
山林雑草の繁茂はすごくて、どこに植えたのか?わからなくなってしまうぐらいです…。
太陽の光が必要な苗木
夏を迎える頃には雑草が繁茂して、2m近くまで生い茂ることもあります。
生長した笹や草木の根元は、薄暗いままです。
そうなると、植樹した苗木はまだ低いので太陽の光が届かず、光合成ができません。
生長できずにやがて枯れてしまいます。
下刈り作業は、植えた苗木に太陽の光を入れるのが目的です。
下刈り作業の内容
では、どのように苗木に太陽の光を入れるのでしょうか。
単純ではありますが、苗木まわりに繁茂している雑草を取り除くというだけです。
山林の雑草や笹は、茎が太かったり硬くて強い草木もあります。
古くから植林では下刈り作業が行われています。
以前は人力の手鎌を使っていました。
現在は主に刈り払い機を使って下刈り作業をします。
下刈りで使う刈り払い機
山林の草木は硬くて強い笹や、竹、幼木、ツル類もあります。
下刈りでは園芸で使われる草刈り機よりも、パワーがある刈り払い機を使います。
刈り払い機の刃は、鋼鉄製のチップソーを使うことがほとんどです。
ナイロンカッター(ナイロンコード)を使うと消耗が激しく、あっという間に交換しなければなりません。
近年、増えてきた電動は今はあまり使われていません。
4ストロークエンジン式よりも、古くから使われる2ストロークエンジン式が使われています。
それだけ山林の草刈りは、園芸用に比べてパワーが必要だという事です。
やる時期は夏
下刈り作業は草刈りです。
草木が繁茂する夏が下刈りの作業時期です。
春秋に下刈りをすることはほとんどありません。
夏の暑い時期の造林育林関係者は、皆一斉に下刈りです。
雨が多くて日照りが良い年は、雑草の生長が早くなります。
一回下刈りした後でもすぐに雑草が生えてきて、二回目の下刈りという現場も時々あります。
草刈りだけでない
時々、朽木や倒木、枝が苗木にもたれかかったり覆いかぶさっていることもあります。
苗木の生長を阻害しているモノを取り除くのも、下刈り作業の一環です。
それも足場が悪い中、作業しなければなりません。
単なる草刈り作業ではないのが下刈り作業の難しさです。
下刈り作業の注意点
刈り払い機を使った下刈り作業で、注意しなければならないことは何でしょうか?
いくつか大切なことがありますが、最も大事なことは植林木そのものを傷つけないようにしなければなりません。
雑草と見分けにくい植林木
下刈り作業の時期は新緑の季節です。
雑草も苗木も新芽をつけていて、見分けにくいのです。
誤って苗木を伐り倒してしまうと元も子もありません。
苗木を痛めるのでは、何のために下刈りしているのか…
植林は基本的に列状に植え付けられています。
植えた翌年は植林木も小さいので、特に注意して刈り払う必要があります。
雑草で見にくい足元
当然ながら植林地は斜面がほとんどです。
足元に気をつけて作業しなければなりません。
下刈り作業に夢中になると、段差や凸凹、急斜面に気づかず、転倒などにつながります。
足元の雑草の中に蜂の巣があったりします。
猛暑が続いた2021年は、蜂の被害が多かったです。
林業で最も多い災害の一つに蜂被災があります。
巣が近いと蜂が飛び回っていることが多く、周囲を注意深く観察しながら作業する必要があります。
災害多いキックバック
林地に残された伐根や切り株にも要注意です。
刈り払い機は朽木や太い笹に刃が当たると、キックバックという跳ね返りがおきます。
操作不能になって自分や周囲に危険が及び、ケガの発生にもなります。
さらには他の苗木を傷つけたり、石や枝を飛散させたりします。
- キックバックが発生しやすい箇所を意識する。
- 草や枝が可動部分に絡まっていないか注意する。
- 刃の研ぎ方、パーツに緩みがないか確認する。
- 使用方法に誤りが無いか注意する。
- 安全帽や保護メガネなど保護具を着装する。
当然ながら作業中の者に近づくのは禁止です。
安全指導に従い操作方法や手順を確認して作業をすすめます。
集中しすぎて脱水症状も…
下刈り作業は、夏場の暑い時期です。
近年は猛暑日が続いたりします。
作業に集中していると、つい暑さを忘れてしまいがちです。
給水せずに脱水症状を引き起こしたり、熱中症になります。
気づかないうちにすごい汗をかいていたりして危険です。
身体を冷やす空調服を使ったり、こまめな休憩や給水をして作業計画を順守することが大切です。
下刈りは植付け後2~3年で終了
植林した木が数年経過して、雑草の背丈を超えるようになれば下刈りは終わりです。
生長した苗木は自ら陽の光に当たることができます。
そこまで生長すれば、人の手を借りなくてもあと数十年は大丈夫でしょう。
苗木が光合成できて、養分吸収でも雑草に負けなくなります。
これ以降は下刈り作業が不要です。
地域や樹種、地形によりますが、苗木は植付け後1~3年程度で下刈り不要な樹高に育ちます。
あとは苗木の無事な成長を祈るのみです。
植えるだけでは森がつくれない
下刈り作業は手間がかかり面倒な林業作業のひとつです。
育林作業で最も費用がかかるのが下刈りです。
苗木は植付けてからすぐに枯れてしまったり、1年で立ち枯れすることもあります。
下刈りしようと現場に入ると、すでに枯れている苗木も目にします。
倒木の下敷きになったり、野生生物の食害に遭っている苗木もあります。
下刈り作業は、苗木の状態を点検することでもあります。
草刈りに集中しながらも苗木の健康状態を見るようにします。
その時に障害を取り除いたり処置すれば、初期の生長を助けることができます。
注目されるのは植樹だけですが…
環境が大事なので植えたからOK…
植林・植樹の「植える」ことだけ注目されたり報道されます。
植えた後の地味な下刈り作業が、苗木を生長軌道にのせる大切な造林作業のひとつです。
その他にも根踏みやテープ付けなどのホントに地味な造林作業があります…。
地拵え、植え付け作業道補修、仮植、施肥やネズミ駆除、植え替えなどもされています。
これらの作業内容はほとんど知られていません。
植林は植えたら終わりではありません。
植えてから手間がかかることを知っておいてください。
植林には皆さんが知らない目立たない作業があります。
手抜きすると植栽しても森林育成にならないことを理解いただけるとうれしいです。