地球環境問題のCO2吸収で注目される林業は、自然相手でどこかのどかなイメージがあります。
山深い地方へ行けば基幹産業が林業という市町村も多いです。
農業と同じく高齢従事者が国内林業を支えています。
しかし、林業には別の怖い側面があります。
労働災害が発生すると高確率で重大災害になるのです。
林業にはあまり危険なイメージがないですが、データは恐ろしい事実を物語っています。
危険度ナンバーワンの林業
死亡災害が多い危険業種と言われる四業種があります。
鉱業、建設業、製造業、そして林業です。
この四業種の労働災害事故データを比べると、林業がダントツで危険なのです。
事故発生率は9倍も
林野庁の「林業における年齢別死亡災害発生状況(令和3年度)」をみると、危険な林業の実態が理解できます。
過去10年ほどのデータでは、林業事故で年間30~40人が亡くなっています。
休業4日以上の死傷災害は、年間1200~1800人で推移してます。
災害の発生度合を表す「千人率」をみると、労働者数に対して事故発生率の高さが見て取れます。
全産業の災害発生率2.7に対して、林業は24.7と約9倍にものぼります。
伐木が危険
急斜面で足場が悪い林業は、他の業種と比べても重大災害が発生しやすいことがデータで明らかです。
植え付けなど植林よりも、伐採作業中に重大災害が起きやすいのは想像できるでしょう。
伐木作業中の死亡事故が約6割で、集材も合わせると8割にのぼります。
事故原因に挙げられるのは相変わらず、かかり木処理、重機による事故、転落転倒などです。
繰り返す林業重大災害
日本の林業は古くから営まれた歴史があります。
昔から林業は命を落とす人が多い職種で、それは今も変わりません。
原因は詳細に調査され多くの知見があるのに、重大災害は繰り返し発生してます。
安全講習に問題があるのか?
私は何度も出席受講しましたが、林業安全講習内容は高度で現実的になってきてます。
実技講習も頻繁に実施されてます。
林業・木材製造業労働災害防止協会でまとめている資料は膨大で、林業災害防止に関する知識は豊富です。
講習内容が甘いので資格制度にしたら…
もっと安全教育に時間を
このような声もあります。
ただ、毎日現場に出ている現場作業員が「危険性を知らない」ということはあり得ないと思います。
問題なのは「危険を承知で違反行為をやってしまう人がいる…」ということだと思います。
世界の林業はどうか?
海外の林業災害に関するデータは、現場条件や作業方法が異なり比較が難しいでしょう。
2009年の米国労働統計局データによると林業、木材製造業の同年間死亡災害は51人とされてます。
日本国内の30~40人よりやや多いです。
しかし、日本の年間素材生産量は2,000万㎥にくらべて、全米のそれは4億㎥です。
生産量20倍に対して、事故死亡者1.3倍ということになります。
日本の林業は生産量が少ないのに事故だけ多いということになります。
欧米では林業新人に事故画像映像を見せる
日本では残酷な映像を見せない傾向がありますね。
欧米では林業を志す人に、実際の事故の映像画像をいきなり見せます。
仕事を覚えることや生産性を考える前に徹底的に安全教育をします。
精神的にきつい事故現場映像を見せて「逃げ出す人がいても良い」という姿勢です。
それだけ林業現場は危険ということから伝えるのです。
林業事故のリアル
慣れない新人が技術不足で事故を起こすのはレアケースです。
先ほどの「死亡災害発生状況」のグラフでは高齢の被災者がほとんどを占めます。
経験年数や従事者年代構成は別として、重大災害事故を起こしたのは60歳以上が5割、40歳以上になると7割を超えます。
ベテランが事故を起こす
年齢もさることながら経験年数が十年以上のベテランに事故が多いのも特徴です。
加齢により判断力や体力も鈍るのでしょうが、原因はそれだけでないと思います。
とるべき安全行動をしていないのです。
そこにはベテランならではの過信があったと思われます。
危険なかかり木が発生したのに「安全処理してたら仕事にならない!」と面倒がるのもベテラン作業員だったりします。
年上の高齢作業員から強く言われると、安全重視する若手でも遠慮してしまうのです…。
決め手はチームの雰囲気
社員の仲が悪く会社の雰囲気が悪いと、自然と会話が少なくなります。
ちょっとした危険予知も言い出しにくく、伝えないことになります。
林業現場は自分たち以外に周囲に誰もいないことが普通です。
誰も見ていない林内では「ちょっとぐらいなら…」という気持ちが起きてしまいます。
「かかり木を発生させて怒られる…」ことを耳にしたことがあります。
伐倒で少し違う方向に倒れるミスは有り得るし、立木が込み合う間伐ではかかり木が発生しやすくなります。
それを叱責されたら発生してしまったかかり木を隠そうと、一人で危険な処理行為をしようとします。
経営が厳しいからと従事者に過酷な予定を強いて、疲労が事故原因になることもあります。
安全対策は面倒なことが多く疲れていると手抜きしたくなります。
管理者は作業員の疲労度に眼を光らせる必要があるのです。
まとめ、事故防止の最適化方法は?
林業災害事故が起きるたびに、緊急安全大会、安全研修が実施されてきました。
しかし、繰り返し講習や研修をしても、しばらく経つとまた事故が発生しています。
私は労働安全講習の内容に問題があるとは思いません。
林業災害事故を防止するためには、安全講習以外にも必要なことがあるのではないでしょうか?
危険な現場は…
現地調査した時、着手前に危険を感じることがあります。
日本国内の林業現場では、斜度がきつすぎて林業すべきではない林地が多く存在します。
林業従事者であろうとも危険な現場は拒否する姿勢が大切だと思います。
人命と利益を天秤にかければすぐに判断できます。
大切な命を投げ出しても完遂しなければならない林業現場などありません。
2億円を超える損失
機械は修理や入れ替えで交換が可能ですが、災害事故による傷病は完全には治らなかったりします。
ましてや死亡事故は取り返しがつきません…。
内閣府によると交通事故において1名死亡損失額が2億円を超える試算もあります。
所属する林業会社の価値はいくらでしょうか…?
人命を金銭に置き換えることは不可能ですが、死亡災害事故は莫大な損失になる事を認識しなおす必要があります。
こんなことが大事?
無事故無災害は林業のプロである証です。
災害防止する行為を功績とする風潮が、もっとあっても良いと思います。
そのために意外と大切なのは「頻繁な食事会、飲み会」だと思います。
誰だって余計な作業が増えることを嫌います。
しかし、それが災害事故防止だと話が違います。
そんな時に作業員どうしの迅速な連携をとるためには、日頃からのコミュニケーションが大切です。
一緒に食事をすることで「遠慮なく言いやすい」環境ができてくると思います。
災害事故防止のスタートはこんなことにあるのかもしれません。