人気アニメにチェーンソーが登場します。
ゾンビを倒す使い方は、当然フィクションです。
ご存じのとおり、そもそもチェーンソーは木材を伐る機械です。
今日も林業現場で使われています。
”何でも切れちゃう万能ツール”と思われがちですが、チェーンソーは繊細で危険です。
知識と経験がないと、林業災害事故の原因になります。
林業に欠かせないチェーンソーは、現場でどんな使われ方をしているのでしょうか。
そして、これからはどうなっていくのでしょうか?
チェーンソーが変えた伐木の歴史
![のこぎりでの伐採](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man12.jpg)
チェーンソーが発明されて100年が経つと言われてます。
林業現場に普及してから約50年が経ちました。
日本林業の歴史は1000年を超えます。
その間の伐採道具といえば、斧やノコギリでした。
1000年斧、50年チェーンソー、20年高性能機械
![林業に欠かせないツール](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man11.jpg)
現在の伐木作業では、当然のように高性能林業機械が使われています。
輸入が中心だった高性能林業機械は、30年ほど前から少しずつ使われていました。
本格的に現場に普及し始めたのは、この20年ほどです。
それまでの伐木仕事は、チェーンソーが主流です。
伐倒も、玉切りも、枝払いも、全てチェーンソーでの作業でした。
今は現場条件によりますが、林業高性能機械を使えばチェーンソーなしでも伐木作業ができます。
それほど高性能林業機械は、進化してきました。
ただし、急傾斜が多い日本林業で重機が入れない現場が多いことを念頭に入れなければなりません。
斧、鋸からのイノベーション
![のこぎりや斧からチェーンソーへ](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man04.jpg)
チェーンソー導入の最大のメリットは、木を伐るための時間を大幅に節約できたことです。
人力の斧やノコギリとの違いは歴然です。
誰でも「ギコ、ギコ…」と鋸で木材をカットした事があるでしょう。
乾燥した細い軟木でもなかなか伐れなくて、けっこうな重労働ですよね。
伐採現場でチェーンソーが登場したのは画期的でした。
動力がエンジンであることから、作業員の疲労がかなり軽減されます。
パワーがあるエンジンで一気に切断できます。
チェーンソーによって、一日に切断できる木材量が革新的に増えたと思われます。
人力で丸太を伐るのは時間がかかって重労働だったのです。
作業時間だけで換算すると、少なくとも10倍以上は生産性向上があったとみられます。
導入が早く、機械化林業へ
チェンソーにはあまりデメリットがありません。
強いて言うならば、燃料がないと仕事にならないということです。
ツーストロークガソリンエンジンなので、混合油を使います。
燃料が古いとエンジンがかからなくなったりします。
新しい燃料を常時用意しておかなければなりません。
他にもチェーンオイルやプラグ、予備のソーチェーンなど、メンテナンス道具や消耗品を準備しなければなりません。
まあ、その辺は他の道具と同じですね。
チェーンソー本体の価格は、30,000円くらいからです。
古くはもっと高額でしたが、生産性向上率から考えると安価です。
高額な設備投資でなかったことが、早く現場に普及した理由かも知れません。
今から考えるとチェーンソー導入は、機械化林業の先駆けと言えるでしょう。
チェーンソー仕事のリアル
![チェーンソーはカッター刃がまわる事で切断する仕組み](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man14.jpg)
危険な道具として認識されるチェーンソーですが、実際の林業仕事で危ないことや注意すべきはどんなことなのでしょうか。
エンジンが動力で刃物を扱う道具はどれも危険です。
どんな道具もメンテナンスが欠かせず、適切な使い方をしないと事故につながります。
伐木作業では足場が悪く、移動が頻繁にあります。
長距離になり、道具運搬もラクではありません。
危険!キックバック
![](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man08.jpg)
チェンソー事故で最も多いのがキックバックです。
バー先端の上部が危険ゾーンで、そこで伐るとバーが跳ね上がり負傷の可能性が高くなります。
チェーンブレーキ機能や慣性力機能などの安全装置が付いてますが、バーの先端で作業するのは危険です。
二本同時伐り、突っ込み伐り、高所伐り、低速回転、片手伐りなど、危険な作業方法によりキックバックが発生して事故になります。
強烈な反発力のキックバックは、チェーンソー作業で最も警戒しなければなりません。
特別教育を受講しなければならない
少し前までは特別教育の必要がなく、自己流で伐木していた人もいました。
繰り返えされる事故により、今は特別教育を受けなければなりません。
受講は学科と実技合わせて3日間ほどかかります。
労働安全衛生規則改正で特別教育を受講しなければ、チェーンソーを使った林業に従事できません。
免許制ではありませんが試験もあるので、理解度をチェックされます。
それほどチェーンソーがらみの事故が多いということです。
白蝋病(はくろうびょう)
白蝋病は、チェーンソーなど機械振動を身体に長時間受け続けることで発症します。
手足の血管が収縮して手指などの手足が白くなり、血の気がひいたようになる病気です。
現在でも根本的治癒が難しい難病です。
長時間振動を伴う作業は、建設業などでも制限されています。
チェーンソーを長時間使う伐木従事者は、古くから白蝋病に悩まされてきました。
現在は、チェンソー作業時間を一日2時間以内とするよう義務付けられてます。
腰痛
![チェーンソー道具の他にもたくさんの装備が…](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man10.jpg)
最近のチェーンソーの重さは、2~3kgと軽量化してます。
二十年前に私が使っていたのは、約5kgはありました。
伐木にはコレを担いで一日中、山を登り降りして移動しなければなりません。
他にも燃料や整備用具、ナタや弁当飲料など多くの装備品を持っています。
やるとわかりますが、どんな人でも腰痛に悩まされると思います…。
林業で使うチェーンソーはパワーがあって重さがないと「つかえない…」とされてました。
でも、最新のチェーンソーは軽くてよく伐れます。
エンジンもカッターもよく改良されているのだと思います。
目立て
![](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man13.jpg)
チェーンソーは、映画や漫画で武器として使われることが多いですよね。
無敵の万能武器に見えますが、意外にもすぐに伐れ味が悪くなります。
例えば、硬いものを伐るとカッター刃がこぼれて、すぐに伐れなくなります。
木材は軟らかい木もありますが、ナラやカシのような硬い木もあります。
現場では砂や砂利が付着してる丸太も玉切りしなければなりません。
ちょっとでも砂を噛むとすぐに伐れなくなるので、鋸の目立てが一日に何度も必要です。
鋸の目立てとは、丸やすりでソーチェーンのカッターを研ぐことです。
不適切な研ぎ方だとソーチェーンが断裂したり、振動やキックバックがおきやすく、危険性が増します。
目立てが素早く適切にできるようになれば、一人前のチェーンソーマンです。
今は補助工具を使う人も多いですが、熟練した人はそれを使用しなくてもよく伐れて安全な研ぎ方ができます。
アニメをよりリアルにするには、数人と戦ったらすぐに鋸の目立てをするシーンが必要になります…。
チェンソーマンがいなくなる…?
![](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man05.jpg)
高性能林業機械とは、ハーベスタ、プロセッサなどという重機のことを言います。
ハーベストプロセッサは、ざっくり言うと重機にチェーンソーが付いている機械です。
つまり、重機を運転している人が遠隔でチェーンソーを使えるような仕組みです。
安全ですし作業員の体力負担が軽減されます。
重機を操縦するだけなので、女性もオペレーターになれます。
この10年ほどで林業設備投資の補助金が手厚くなり、一気に普及が進みました。
林業すべてを機械化するのは不可能
従来、高性能林業機械は外国製のものが多く、日本の林業現場には適していませんでした。
近年は国内メーカーで改良され、開発された機械も数多くあります。
ですが、世界と比べ斜度がきつい日本の林地に合わせた高性能機械の開発が難しいのも事実です。
建設用のベースマシンを使った機械がほとんどですが、どんな林業現場にも入れるわけではありません。
これからのチェーンソー仕事
![](https://sanwa-f.net/wp-content/uploads/2023/05/chainsaw-man06.jpg)
高性能林業機械の時代になり、「もう、チェーンソーを使う林業従事者の仕事はない…」
と、思われがちです。
しかし、まだそうではありません。
日本の林地は急傾斜が多く、伐木作業効率が悪いところが多いです。
そのような厳しい条件では、まだまだチェーンソーで伐採するしかありません。
危険作業を安全にすすめるには、チェーンソーを扱う知識と経験が必要です。
人工林から天然林へ
国内において、利益を得るだけの経済林拡大の時代は終わりました。
これからは森林を災害防止や環境保護観点から、天然林に戻す仕事が主になると思います。
CO2吸収のための植林、育林活動が多くなるのです。
傾斜がきつい人工林では作業効率が悪く、危険で高コストです。
これからは伐木から森林再生へと仕事の流れが変わっていくと思います。
世界人口は増加し木材需要が増加するものの、日本では限られた緩傾斜の人工林しか経済林として成り立たなくなるでしょう。
生産性を考えても厳しい地形の山林は、天然林に戻していくことが正しいと思います。
チェンソーマンには仕事が残る
脱炭素のために植林が注目されてます。
植えてから年月が経過すると、間伐や成長不良木、被害木整理などの育林仕事があります。
それらにはチェーンソーを使う仕事が必ずあります。
育林は伐採がメインではありません。
木の間引きが中心の間伐では、高性能機械が入れない狭い箇所が多いです。
急傾斜やぬかるみだったり豪雪地帯もあります。
経済林として収益性が悪い人工林はそのような悪条件です。
天然林に戻すにも植林や育林が必要です。
AIや機械自動化しても、安全にチェーンソーを使えるプロにはまだまだ仕事が残りそうです。