帰省したある日、自分の山林に行ってみると立木が全部なくなっていた…
なんてことが現実に起きています。
立木が盗まれているのです。
自分が代々所有している山林だと思って現地に行ってみると、立木が全くないハゲ山だったりするのです。
そんなことが今の日本で起きていることを多くの人は知りません。
木が盗まれてるなんてウソでしょ…
他人の所有物である山林土地に無断に入り、故意に無許可伐採して盗難する犯罪行為を盗伐と言います。
多くの人が知らない盗伐被害の実態をお知らせし、考えてみたいと思います。
盗伐とは?
盗伐って聞くと、聞き慣れない言葉であまり意味がわからない方が多いでしょう。
林業には似た言葉で誤伐があります。
誤伐とは、伐採対象立木以外を誤って伐採してしまうことです。
境界を越えてしまったり、伐らないで残す予定の立木を間違えて伐採してしまうことです。
林地境界線が曖昧だったり、勘違いや連絡ミスが誤伐の原因です。
盗伐と誤伐はまったく違う
対策していても誤伐は、残念ながら時々発生してしまいます。
公図や森林計画図の表す境界線が違っていたり、GPSで示す境界線もさらに別のところにあったりします。
林地境界線が曖昧だったら、それと思われる線の数十メートル手前までしか伐採しません。
越境したら誤伐です…。
境界線近くの立木は念のため残しておくのです。
しかし、注意していても誤伐が発生します。
林業従事者にとって伐倒現場は危険ですから安全に注意を払い、生産性を上げるために黙々と伐倒に打ち込んでいます。
集中するあまり、つい気がつかないうちに境界線に近づいていることがあります。
最近、土砂崩れや山崩れがあったことにより、図面の地形が違っていることもあります。
ベテランが注意していても誤伐が起きうるのです。
一方で盗伐は、故意に他人の立木を伐採します。
初めから価値の高い立木を狙って盗もうと伐採するわけです。
誤伐との違いは、故意かどうかです。
実態がつかめない理由
山深い山林は人の目が届きにくいです。
監視しようにも難しい現実があります。
盗伐を発見するには、被害者やその知人が現場を偶然発見するしかないのです。
また、盗伐を目撃したとしても、それが犯罪行為だと見極められる人は少ないです。
相続などで山林を所有している人は関心が薄く、一度も現場に行ったことがない人も多いです。
そんな方は既に盗伐されていても、まだ気づいていません。
民有林の総面積に対して所有山林を現地確認している方は、おそらく少数だと思います。
その中で盗伐被害に気づいている方はさらに少数です。
つまり、盗伐被害に遭っていても気づいていない民有林が、全国にまだかなりあると推定されます。
固定資産税を払ってるのに所有山林に行ったことがない方は、森林組合に連絡するなどして是非一度、現地を見てください。
手口は?
盗伐は窃盗罪です。(森林窃盗罪)
故意に他人の立木を無断で伐採し、素材丸太を売却して不当に利益を得るのです。
その手口はどんな方法なのでしょうか?
高価値立木から狙われる
当然のように高い値段がつく高価値の立木から狙われます。
スギとヒノキを比べると山元立木価格に差があります。(材積1m3当たり、21年3月J-FIC)
- スギ@¥3,200
- ヒノキ@¥7,130
上記から、ヒノキが狙われやすくなります。
ヒノキは生長に長い年月がかかり、育ちにくいので植林場所も限られる貴重樹種です。
少しずつ、選んで…
林道が整備された山林は高価値の経済林地です。
盗伐犯からすると好都合になってしまいます…。
林道整備されていると通いやすく、搬出も楽で犯行しやすいので、何年もかけて盗伐され続けることがあります。
一年に少しずつ盗伐しながら通報されないか、様子を見ています。
翌年、また翌年と盗伐を繰り返していく手口です。
狙う立木近くの仕事をわざと受注する悪質業者もいます。
正当な林業作業を装いながら、少しずつ盗伐を繰り返すのです。
太いヒノキだけが欲しい…
「選択伐採」という対象立木を限定して盗伐されることもあります。
高い技術が必要ですが、高価値の立木だけを伐採していく方法です。
伐ったら抜根が残りますが、それを重機で引き抜き除去します。
伐根跡は数年経つと草木に覆われてわからなくなります。
証拠が残らなくなるのです。
さらに過去には国有林にも手を出す業者がいたそうです。
証拠として立証できませんが複数の方々の証言があり、これは本当にあった話です…。
所有者が判明しているかがカギ
所有者不明、共有者多数、誰の持ち物かわからない不明山林が全国に数多くあります。
不明民有林は長年放置されてます。
放置山林は盗伐業者から狙われます。
訴えられないので盗み放題です。
盗伐被害が判明していない放置山林が相当数あると推定されます。
被害を訴える人がいないからです。
盗伐被害が多いとされる宮崎県は林業が盛んなので、他県に比べると民有林の土地所有者が判明している方だと思います。
林地所有者の林業への関心が高く、それゆえに盗伐被害に気づきやすくなります。
ググると盗伐被害件数が多いとされる宮崎県ですが、もしかすると実はそうでもないかもしれません。
判明していないだけで、他県の方が被害件数や面積が大きい可能性があります。
盗伐犯人のプロファイリング
立木の伐採は意外と短期間で終わります。
現場条件にもよりますが、一般的なグラップル、ハーベスタなどの伐採重機を使えば、1ヵ月で数百m3から1000m3を伐採搬出できます。
搬出する丸太の量としては大型トラック数十台分です。
計画すれば、あっという間に広大な面積が伐採されてしまうのです。
そんな知識や林業重機を持たない人が、いきなり盗伐するのは難しいと想像できますよね?
山林伐採はとても危険で、高い安全技術や経験が必要です。
つまり、盗伐するのは林業に詳しい関係者に限定されるのです。
さらに、例えば北海道から関東に来て盗伐することはないでしょう。
出張経費や重機移送などで、手間や経費を考えると現実的ではありません。
盗んだ丸太をどこに売ればいいのかわかりませんし、遠くに運ぶには運賃がかかります。
見知らぬ林業者が急に林道を出入りし始めると、さすがに目立ちます。
盗伐業者は現場近くに潜んでいる可能性が高いでしょう。
防ぐ方法は?
実態がわかっていないので、全国の盗伐被害全容はつかめていないと言えます。
そんな現状ですが、今できる盗伐の防犯対策は何があるのでしょうか?
監視カメラと行政の限界
桃やブドウの窃盗被害が話題になっています。
農作物が盗難被害に遭って社会問題化してます。
防犯には監視カメラが最も効果的です。
しかし、農地は人里離れており、監視カメラの設備自体が盗まれることもありえます。
山林となると監視カメラの設置は、盗難リスクが高すぎて難しいでしょう。
行政や森林組合に頼るのも限界があります。
森林組合は現場をこまめに巡回するほど人手が足りてないです。
行政においても伐採届が適切に提出されていれば法的問題はなく、一件ずつ現地まで行くほど暇ではありません。
盗伐犯が伐採届を出すわけありませんが…
自分の山は自分で守らなければならないのです。
情報を集める
もし盗伐を疑うことがあったら、とにかく多くの情報を集めて記録保存しましょう。
それ以上の被害を食い止める効果があり、他の盗伐事件の証拠になる事もあり得ます。
盗伐は堂々と作業されるので、多くの関係者が情報を持っています。
- トラック運転手
- 林道周辺の居住者や農業者
- 担当区の森林官
- 森林組合
- 重機整備、燃料業者
- 隣地山林所有者
- 山菜とり、釣り客、登山客、工事関係者など
完全な証拠にはならないとしても目撃証言をたくさん集めておきましょう。
再犯防止のための行動は、裁判の証拠になる可能性もあります。
山林電波はイノベーション
これからの山林防犯において、効果的な可能性があるのは衛星からの電波です。
遠く離れた山林もリアルタイムで画像映像を確認できるようになります。
防犯カメラ並みの画像精度があれば、盗伐現場の証拠として残すことができるでしょう。
数分おきの時系列で画像が残せるのは画期的だと思いませんか?
衛星電波が山林に来ると「盗伐防止にはイノベーションがおきた!」と言っても良いくらいの変化です。
まとめ
盗伐する動機には、それをしないと生きていけない林業事業者の厳しい現実もあります。
地域によっては盗伐が何十年も延々と続けられてきた…という信じられない話も耳にします。
述べてきたとおり、盗伐防止には遠隔地山林管理の難しさがあります。
盗伐に狙われやすい山林を整理しておきます。
- 整備された林道の近くの山林
- 高価値の立木がある
- 長期間手入れせず放置されている
- 所有者不明、林地境界が不明
- 共有者多数や一部不明、登記してない林地
- 悪い噂の業者が近くにいる
盗伐を防ぐ根本的な対策とは
相続した故郷の山が心配になってきたな…
全国的な盗伐被害は、まだ全容が明らかになっていません。
相続や代替わり、法人の倒産廃業などで放置された山林が多数あります。
それも年月がかなり経過しました。
民有林は林地境界がはっきりしていないことが多いです。
今後、所有者が盗伐に気づくのか分かりません。
抜本的な盗伐解決策の一歩目は、不明山林と境界を判明させることからスタートします。
近い将来には山林にも電波が入ってくるでしょう。
デジタルの力で盗伐の現状が改善することを祈りたいです。
まだ自分の所有する山林を見たことがない方は、一度現地を訪れてみることから盗伐防止がはじまります。
まず、その土地の森林組合や役所林務に問い合わせを…