世界的感染症蔓延の影響により物流が混乱したことなどが原因で、建築や物流でウッドショックが話題になっていますね。
この関係で、
林業は儲かっているんじゃないの?
よく質問を受けます。
コレには返答が難しく複雑な問題が絡み合っています。
ウッドショックによって、儲かっている人と、退場する人がいると思います。
ウッドショックで儲かっている人
どんな商売でも商品価格が上がれば利益が増えます。
私の知る限り林業では斬新な新商品や技術革新、イノベーションはおきてません。
従来の仕事をしていたら想定外の値上がりで、予想よりも利益が出た(見込める)人や法人がいることは確かです。
仕入れ値との差益が増大
山林所有者は、代々相続したりしてる方も含めて立木を「仕入れ」していることになります。
山林や立木を購入していれば仕入れ価格があります。
現在の立木価格はほとんどの場合、仕入れ価格より高くなっているはずです。
その意味で、山林から搬出予定の素材丸太販売価格が高騰して2倍近くになったりしているのです。
所有している立木財産が勝手に値上がりしたことになります。
供給できる人は有利に
安定供給できるトレーダーは儲かっていますね。
トレーダーとは、仕入れてすぐに売りさばく木材商や商社などです。
ウッドショックは供給面で問題が発生してることが主な原因とされてます。
この状況でも安定的に供給できる生産者、製造者は値上がりで恩恵を受けます。
100で仕入れて120で売り利益20が、ウッドショックにより、200で仕入れて240で売り利益40になったので利益倍増です。
ただし、これは安定して供給できる者に限られてます。
林道未整備で立木を売ろうとしたが…
立木が高額になってきたので、
早く立木を売りたい!
今売ろうと慌てている方もいます。
山林立木は売買の流動性が低く、伐採搬出のためには林道整備が必要です。
ところが、人手不足や燃料資材高騰で林道工事価格も上昇中です。
10年前の工事価格で見積もっているとその違いに驚きます。
立木の販売価格も上がっていますが、それにかかる経費も上昇していることに注意してください。
ウッドショックで廃業も…
木材価格が上がっているのになんで廃業…
「えっ!」と思われますが、木材の値段が上昇しているのに事業を休業廃業する木材事業者が増えることも考えられます。
仕入れ価格高騰で悩んでいると
仕入れたいけど、価格が高いなぁ…
販売価格の転嫁が遅れていたとします。
すると、収益悪化で製造原価を見直ししなければならなくなります。
例えば、製材工場の製造原価(変動費)の大半は材料の原木です。
価格高騰した原木を仕入れるのに躊躇しているうちに、仕入れ計画通りに進まなくなったりします。
ライン停止や休業を余儀なくされ固定費が重くのしかかります。
工場の生産ライン停止はあっという間に経営を悪化させます。
運賃や燃料高騰
動力費のコスト上昇について、企業努力だけではどうしようもない問題です。
電力や燃料価格は生産の直接経費にそのまま反映されるため、常に注視しなければなりません。
運賃も同時に上がるので販売価格の転嫁が遅れると一気に採算がとれなくなります。
設備投資、人手不足
林業で設備投資が積極的に行われてきたかと言うと、そうではありません。
現実には古い機械を修理して使っている林業事業体が多くあります。
仕入れコストが増えることで資金が圧迫され、設備や重機の入れ替え投資を躊躇します。
資金の圧迫は人材投資も見送る要因となります。
今でも高齢化して人手不足なのに、さらなる悩みとなりうるのです。
取引先の休廃業によって
木材業界は歴史が古く、取引先のサプライチェーンは細かく広がっています。
起業や新規参入が少ないです。
新陳代謝がない業界では、ある事業者が廃業すると連鎖的に休廃業がおきるとされてます。
国内人口減で労働力不足があり、事業体数は緩やかに減り続ける予測です。
ただ、減るにしても何かのきっかけで数社が一斉に減る現象と予測されてます。
長年取引先のA社がやめるなら、そろそろウチも会社をたたもうかと…
グラフでいえば直線下り坂というよりも、下り階段のように連鎖して一団となって減る可能性が高いということです。
もし、景気後退が来たら…
いつの時代も皆「厳しい…」といいます。
今は好況なのか不況なのか立ち位置がわからないものです。
バブルもはじけないと実感できず、好不況は後になってからよくわかるものなんですね。
物流を見ると今は景気が良い
ウッドショックで木材価格は確かに高騰しました。
不景気ですと「その価格だったらいらないよ…」と一蹴されます。
でも、今はどんな価格でも受け入れてくれて発注してくれる雰囲気があります。
その背景は好景気だからで、商品が良く動き物流が活発なのです。
ちょっと庶民には実感がわかないですがね…。
住宅建材需要も堅調だが
建物は一定期に必ずリフォームが必要です。
住宅建材需要は堅調です。
公共の大型プロジェクトやマンション開発があると需要が伸びます。
CLTを使った新技術の木造マンションが普及しはじめれば木材需要に追い風となります。
ただ、住宅需要は不況で急減し影響をモロに受けます。
再び輸入材の脅威も
為替相場の行方は誰にもわかりません。
円安はウッドショック要因のひとつとされてます。
輸入材が高額になるので地元から仕入れようとしてくれるのです。
しかし、何らかのきっかけで円高になったらどうでしょう…。
北欧北米の製材工場は製材生産をやめたわけではありません。
為替次第で再び外国材輸入が増加する可能性は残っています。
成長期のゆるやかなインフレとは違う
ゆっくりなら良いですが、急激な価格上昇のウッドショックは歓迎すべきではないと思います。
経済的に価格上昇局面は良いことが多いのに、かえって業界の退場者を増やすことになりかねません。
急激すぎる価格上昇
私は入社20年以上木材の流通にかかわっています。
何度か好不況の波を経験してきました。
ある木材販売単価が、どうしても@¥12,000を超えませんでした。
好況になったり、特需があったりして何度も何度も「コレは超えるのでは?」と思いましたがそうなりませんでした。
しかし、ウッドショックは違いました。
あっさりと@¥14,000になり、2022年冬は@¥18,000を超えたりしてます。
急降下もありうる
原因は何なのか調べると、それはインフレや円安、原油高などたくさん見当たります。
そんな中でも大きな要因は供給減だと思います。
海外輸入できていないことで国内林業を向いたら、人手不足や高齢化で供給者が脆弱だったからです。
需要者は待ってくれません。
商品の奪い合いになって価格の上げ合い合戦となっているところもあるようです。
ウッドショックの損得
山林所有者は黙って所有しているだけで時価が上昇しました。
資産価格が上昇するウッドショックを歓迎している山林所有者も多いでしょう。
ただし、懸念していることもあります。
ある山林所有者が言ってました。
何代にもわたり長年、山林を管理してくれてた林業サービス会社が廃業するかもしれない…
長い年月をかけて収穫する林業は、継続することで環境や社会にもメリットが出てきます。
広大な山林を一気に伐採することは許されませんし、作業力が足りません。
かといって人工林を放置すると災害リスクになります。
高騰したから売る、安いから放置…と金融資産のようにいかないのが山林です。
急におきたウッドショックは国内林業の問題点を明らかにしました。
それが今後に向けてどんな変化をもたらすか?まだわかりません…。
社会の人々みんなが日本の森林を考える時だと思います。
私たち林業関係者へもたらすウッドショックの影響は数年後に判明すると思われます。