日本の林業は、最近20年ほどでどう変わってきたのでしょうか?
日本は一年に80万人も減る人口減少社会です。
林業に携わる人も減ってきているでしょう…。
人手不足が深刻なのはご想像どおりです。
林業を含めた一次産業はこれから長く続く人手不足でどうやって経営していくか?
真剣に考えなければなりません。(もう遅いのかもしれませんが…)
まずは何事も問題に対して正しく現状を認識するところから始まります。
過去と比べて林業で起きているデータファクトを調べてみました。
過去からの変化を知れば、この先の日本林業の姿を想像できるかも知れません。
報道やウワサとちょっと違う…
そんなこともあるかもしれないです。
一つでも小さな驚きがありましたら、調べてよかったです!
(参考:農林水産省統計課、木材統計調査、総務省労働力調査、林野庁の高性能林業機械の保有状況、総務省就業構造基本調査)
林業を取り巻く環境変化
工場数が減ってきている気がしますよね…。
過去を遡ってみると木材を使う工場、製材所に変化がおきてます。
全国で閉鎖する製材工場が増えて確かに工場数が減ってきています。
でも、丸太消費量が激減している訳でもないようです。
丸太消費に直結する木材加工所の状況を見てみます。
製材工場は減っているが…
全国の木材製材工場は年々減っています。
この20年で半数ほどに減ってきました。
2000年に10,500工場余りあったのが、2021年には半分以下の4000ほどになったとされてます。
特に年間木材消費量2,000m3程度の「小規模な製材工場」は、2000年比で6割減くらいです。
それでも小規模工場は全体数に対してまだ半数を占めています。
反面、年間10,000m3以上の丸太を使う大規模製材工場は、工場数が減っているものの減り方は緩やかです。
ということは全体数が減っている中で、工場の大規模化が進んでいるといえます。
製材生産量も減っているのか?
ところが、製材品の出荷量が減っているわけではありません。
2012年の製材出荷量は約1200万m3ですが、現在は1320万m3です。
合単板やチップ生産量も伸びています。
すべてを合わせると減るどころか、概算で15%ほど製材生産量が増えているのです。
大規模製材工場が75%の素材丸太を消費してます。
工場数が減るものの、工場単位あたりの生産量が増えていることになります。
工場数が減り大規模化し、そして「製材生産量が増えてる」と認識してください。
入職者と離職者
林業従事者は2010年あたりからずっと4~5万人で、やや微減の傾向です。
そこに新しく林業で働きたいと入ってくる人は、年間3,000~4,000人います。
ということは、
年によってバラツキがあるものの毎年7~9%の入職者と、それ以上の離職者があるということです。
離職者の方が少し上回っているので、全体数がのびずに減少していくのでしょう。
離職の理由は全業種、林業を問わず、様々な事情があると思います。
全産業の一年平均離職率は13.9%です。
林業だけ「新規就業者が定着しにくい業種」とは言えません。
労働時間は長いのか?
これまで林業従事者の労働時間は、年間1,850時間に対し、全産業では1,950時間ほどでした。
近年は、ほぼ同水準となっているようです。
林業だけが「とりわけ長時間労働」という訳ではありません。
似た業種の建設業は2,200時間超えです。
建築や建設は数字に出てこない残業が多くあると言われてます。
それに対してチーム作業する林業の残業は少ないと思います。
「林業は長時間労働」と言われますが、状況が少し違っているようです。
機械化で生産性が上がった
ハーベスタ、フォワーダ、プロセッサなどは高性能林業機械と呼ばれます。
近年の林業はこれらの導入が進み、確かに生産性が上がりました。
保有台数も2000年の2,100台ほどから、今や10,000台に届くほど増加してます。
それにより、一人当たりの丸太生産量が1.8倍に上がったという試算もあります。
労働生産性が低いといわれる林業ですが、少しずつですが生産性が上がってきています。
近年の高性能林業機械の導入は、林業仕事のやり方を変えるほどの大きな変化です。
正規雇用が増えている
林業は雇用形態が不安定だから離職率が高いんだ…
コレはよく言われてますね。
しかし、林業では正規雇用者数が年々増加してます。
- 2007年正規雇用者数22,600人
- 2017年正規雇用者数28,800人(約27.4%増加)
その反面、非正規雇用者数は減少傾向なのです。
- 2007年非正規雇用者数16,800人
- 2017年非正規雇用者数11,400人(約32.1%減少)
ただし、雇用形態にかかわらず年間200日未満の雇用者数は全体の約23%。
これは年間通してずっと林業仕事をしてる状況でないことを示しています。
約20%とされる全産業平均よりも高く、林業の低賃金を生み出す要因になりえます。
低所得ではありますが…
年間平均所得は全産業平均が414万円です。
対して林業のそれは305万円です。
やはり、林業が低賃金なのは間違いないです。
特筆すべきは65歳以上の年間平均所得です。
- 65歳以上全産業年間平均所得:303万円
- 65歳以上林業年間平均所得:320万円
肉体労働なので人によると思います…。
林業では全作業に比べて高齢者にやや高い賃金が支払われています。
どう変わるのか?
これから国内高齢者が大挙して林業に参入してくる可能性は低いでしょう。
人口減少の日本ではもう就労者急増は考えにくいと思います。
未来の林業を予想すると、外国人か機械化しかないように思います…。
外国人就労が増えると?
林業と木材産業では、技能実習制度によって外国人材の受け入れ拡大を目指してました。
しかし、最長でも3年の在留資格しか得られません。
仕事を覚えた頃には帰国…。
そんな状況から外国人技能実習生数はわずかでした。
しかしながら、人手不足対策として在留資格「特定技能」の対象分野に林業と木材産業を追加する方向で検討が進んでいます。
「特定技能」の1号に指定されると最長5年の在留資格が認められます。
5年でも林業ではまだまだ短いぐらいですが、大きな進展なのかもしれません。
外国人雇用が増えると過疎地域ではコミュニティーにも変化がでてきます。
実際に農業が盛んな地域では、すでに外国のような農村集落があったりします。
林業は過疎化が進んだ地域が多いです。
林業にも外国人技能実習生が増えることにより、過疎地では外国人文化ができつつあります。
仕方がないことで受け入れなければなりませんね。
さらに機械化が進むのか
高性能林業機械が生産性向上の要因になったのは間違いありません。
全国どこの事業体にも普及してきました。
さらに生産性が上がるとすれば、AIの実装やロボット化だと思います。
AIはセンサーで作業現場状況を把握し、最適な仕事方法を提案してくれます。
重機操作やメンテナンスについてもAIにより個人差がなくなると予想されてます。
また、作業内容を録画記録することで、仕事の進め方をAIが最適化しアドバイスしてくれるでしょう。
現場で要望が高いロボット化はまだかなり先になるような気がします。
日本の林業現場は斜度がきつく、足元が悪いのは人間同様、ロボットにも同じです。
仮に「コレならつかえそうだ!」という試作機や一号機が登場しても、ロボット生産がすすみ価格が一般化するまで時間がかかりそうです。
それでも林業ロボットは世界中で開発が進んでいます。
まだ時間がかかるものの、林業がさらなる機械化に進んでいるのは確かです。
重い意味を持つ林業の人手不足
若者が林業に熱い視線を向けているのは間違いないです。
最も危険な職種であり低賃金なのに、やりがいや魅力を感じているのかもしれません。
森づくりや環境のイメージが林業に強くあります。
見方を変えると、国内自給できる貴重な資源産業でもあります。
急斜面が多い日本の林業は、技術継承しないと再開コストは膨大なモノとなるでしょう。
地形や土質、気候など地域によって受け継がれてきた細かい林務ノウハウを、ベテランたちは持っています。
全国各地の林業ベテランの知恵を受け継いでいく方が将来的に低コストです。
現場でしか体感し理解できない事もたくさんあります。
それには今の危機的な人手不足を何とか超えていかないとなりません。
林業の人手不足は、限られた国土利用においても重要な課題なのです。